われわれは今日、そのような新しい秩序に基づく新しい力が、 現在の社会のどこに潜んでいるかを知らない。
ましてや、それらの力が、戦争という恐るべき試練によって、はたして顕在化しうるか否かを知らない。
しかしわれわれは、そのような力が出現することを邪魔しないようにすることはできる。
ピーター・ドラッカー
著『日本に来たドラッカー 初来日編』 第一話より
はるか昔、私たち人間は、狩りをしながら
移住生活をしていた。やがて火を使うようになり、
食糧の保存を覚えた。狩りの時間が縮まった分、
人は灯した火に集まるようになり、そこに社交が生まれた。
そして、農耕を知り、定住生活をするようになって、
人口が増え、文明が生まれた。
紙の発明によって、情報の伝達範囲が広がり、
各地で様々な文化が形成されていった。
馬と小船が人間の交通手段であり、情報の伝達手段だった。
その後、鉄道と大船が発明され、人間と人間の交流は、
国と国の交流に発展し、貿易が生まれた。
貿易は経済の発展を加速させたと同時に、
国と国の間に利害競争を生んだ。
1775年、イギリスの力に頼らなくても
発展していける力を持った13の州が
独立戦争を起こし、アメリカが誕生した。
時を経て、地球の東側は
「人々はみんな同じレベルの生活をしよう」
という考えが強く、地球の西側は
「それぞれ自分で頑張って豊かになろう」
という考えが強かった。
その二つの考えが対立していった。
前者は競争がないため経済の発展は遅れ、
貧困が争いを生んだ。後者は競争による格差が
争いを巻き起こした。様々な考え方が
幾重にも折り重なって、社会は混迷の度を増していった。
テロ、領土、資源、食糧、エネルギー、経済、貿易摩擦、
戦争、人口、貧困、民族対立、核等々、
現在、私たちの前にたちはだかる難問はあまりにも多い。
国際関係の複雑さは増し、諸国間の相互依存関係が、
かつてないほど結びつきを強めている今日、
どの問題をとりあげてもみても、一つ対応を誤れば、
人類の屋台骨を揺るがしかねない危険性を内包している。
人間の幸福を破壊し、人間の命を奪ったものは、
戦争ではなく、戦争を起こした人間だった。
人間は、この小さな地球で、
悲惨な殺し合いを起こしてしまった。
兵器や銃弾によるものだけではなく、
食糧が尽きて餓死した人も数知れなかった。
日本は310万人、その他諸外国は、アメリカ108万人、
ソ連2013万人、ドイツ1050万人、イタリア78万人、
フランス75万人、イギリス98万人、中国2000万人、
朝鮮半島200万人、台湾3万人、フィリピン100万人、
タイ8000人、インドネシア200万人、ベトナム200万人、
インド350万人もの人たちが、魂だけの存在となった。
ここで伝えたいのは、その数の多さではなく、
一人ひとりの命の重たさだ。一人ひとりが、
誰かの父であり母であり、誰かの息子であり娘である。
そして、誰かの兄であり弟であり、姉であり妹である。
あまりにも痛ましい戦火で命を失った人たちに、
哀れな犠牲者という言葉は使いたくない。
未来への教訓を与えてくれた勇気ある先駆者という言葉を、
私は使いたい。
英魂に合掌。
平和は世界共通の願いである。
その一方で、「人類の歴史は戦争の歴史」と言われるほど、
絶えず戦争を繰り返してきた。生物学者によれば、
同じ種同士でこれほど残酷な殺し合いをするのは人間だけだという。
歴史は変えられないが、未来は変えられる。
殺戮の世紀を教訓の世紀にすることによって―。
現実から得る教訓の中にこそ英知がある。
ドラッカーはこう言った。
われわれは今日、そのような新しい秩序に基づく新しい力が、
現在の社会のどこに潜んでいるかを知らない。
ましてや、それらの力が、戦争という恐るべき試練によって、
はたして顕在化しうるか否かを知らない。
しかしわれわれは、そのような力が出現することを
邪魔しないようにすることはできる。
ピーター・ドラッカー
1939年、ドラッカーは、人間に主体性をもたらし、
人が安心して生きていける社会をつくる、
その英知の出現に思いを巡らしていた。
詳しくは、こちらでお読みになれます
著者 : ドラッカー専門のコンサルタント 山下 淳一郎
出版 : 同友館 1,800円(税別)
この世にあって何がしかの責任を担う者であるならば、
ドラッカーとは、いま読むべきものである。明日読むべきものである。
10年後、50年後、100年後にも読むべきものである。