確立した事業として成功し成人したかに思われたそのとき、理解できない苦境に立つ。製品は一流、見通しも明るい。しかし事業は成長しない。収益や財務体質などの面で成果があがらない。原因は常に同じである。トップマネジメントの欠落である。
ピーター・ドラッカー
BOSS 月10号 ドラッカーに学ぶこれからの経営 山下 淳一郎
あらゆる手を尽くした。新規事業や新商品も動き出した。コストも見直した。ところが事業は伸びていかない。これは、渋谷にあるIT企業の社長とお会いした時に聞いた言葉だ。その社長の言葉を要約すれば、"これ以上どんな手を打てばいいのか"、ということだ。あらゆる手を尽く抜いた後だけにその嘆息は深かった。自分のメッセージが伝わらない。経営陣の意見がまとまらない。会議で何も決まらない。社内調整に追われる。改革に抵抗が起こる。決めたことが実行されない。そのような中、トップは着実に手を打っているものだ。まさに、問題とは思いもよらないわからないところで起こるものだ。
その社長の言葉を聞いた時、私はこんなことを思い出した。それは自分が経営幹部の一人として仕事をしていた時のことだ。当時の経営幹部の一人ひとりは、私を除いてみんな優秀な人達だった。一人ひとりがいま以上に成果をあげようと、骨身を削って全力で仕事にあたっていた。しかし、それぞれが日々の仕事をこなすことで精一杯で、組織として思うような成果をあげることは出来なかった。組織は不治の機能不全に陥り、士気は衰え、従業員は幻滅し、熱気は失われていった。一度は成功を見た事業であったが、気が付けば生き延びることで精一杯の状況に追い込まれていった。
経営幹部の一人ひとりは、それぞれ「見えるもの」も「見ているもの」も違った。「考えていること」もまったく違った。話しは噛み合わず、発言の行き来があるだけで、正論と正論が衝突するばかりだった。やがて形式的な状況報告が機械的に行われるだけとなった。目には見えない何かを生み出すような話し合いの場はなくなり、決定らしい決定も決定されなくなっていった。気が付けば、未来への働きかけを忘れ、事業は少しづつ力を失っていった。なぜ、優れた経営幹部が全力で仕事にあたっていたにも関わらず事業は力を失っていったのか。ドラッカーは次のように指摘している。続きは・・・(月刊BOSS10月号より一部抜粋)