事業の定義が有効でなくなったことを示す兆候は二つある。
一つは、自らのものであれ、競争相手のものであれ、予期せぬ成功である。
もう一つは、同じく自らのものであれ、競争相手のものであれ、
予期せぬ失敗である。
ピーター・ドラッカー
事業の定義が有効でなくなったことを示す兆候は二つある
事業の定義が有効でなくなったことを示す兆候は二つある。一つは、自らのものであれ、競争相手のものであれ、予期せぬ成功である。もう一つは、同じく自らのものであれ、競争相手のものであれ、予期せぬ失敗である。予期せぬ失敗は、予期せぬ成功と同じように、事業の定義の陳腐化を示唆する重大な兆候である。60才を過ぎてからの軽い心臓発作と同じように、真剣に受け止めなければならない。
組織の蘇生というと、これまでは魔法の力を持つ奇跡の人を探すのがお決まりだった。だが事業の定義の見直しに、ジンギスカンやレオナルド・ダヴィンチはいらない。必要なのは天才ではなく、勤勉さである。賢さではなく、問題意識である。そもそも CEO とはそのための存在である。
事実、事業の定義の変革に成功した CEO は多い。このような奇跡を起こす人たちがいる一方で、同じように有能でありながら、組織をつまずかせる人たちが大勢いる。われわれは、陳腐化した事業の定義の見直しを、奇跡を起こす人に頼るわけにはいかない。奇跡を起こす人に頼って病気を治療できないのと同じである。実際に奇跡を起こしたと目されている人たち自身が、カリスマ性、予知能力、超能力の類を一切否定している。彼らは、診断と分析から始める。目的の実現や急速な成長には、事業の定義の見直しが必要であることを知っている。予期せぬ失敗を部下の無能や偶然のせいにしない。システムの欠陥の兆候とみる。
逆に予期せぬ成功についても、自らの手柄とせず、自らの前提に課題が生じていると見る。彼らは、「事業の定義の陳腐化は、進行性の病、しかも生命に関わる病である」とする。彼らは、外科医の昔からの原則、すなわち決断に関わる原則を知っている。それは「進行性の病は先延ばしにしても治らない、手術でしか治せない」という原則である。