何をやるべきか
経営の本には書かれていないもの
部長クラスまでは、その分野のエキスパートで通用します。
自分の持ち場で成果をあげていればよかったわけです。
しかし、経営チームのメンバーとなると、事情が明らかに違います。
事業全体を見渡す視野が必要になってきます。
経営チームのメンバーは、担当分野については誰よりも知っていて、
組織全体のことを弁えている人でなければなりません。
経営チームのメンバーがそうでなければ、会社が困ってしまいます。
もし、自分が担当する部署の主張だけを貫こうとすれば、
社長はあちらの考えとそちらの考えの違いを取り持つ調整役になってしまいます。
経営チームのメンバーが、社長を調整役に追い込んではいけません。
経営チームのメンバーは、社長に心配をかけないように、
組織全体に立った考えで仕事にあたらなければならないのです。
何をやるべきか―。それは、経営の本には書かれていません。
自分で考え、自分で見つけ出す以外にありません。
会社のリーダーである取締役の多くが一つの部門の責任者を兼任しています。
結果として部門の責任者としての仕事のみに専念してしまいます。
一つの部門のリーダーに収まってしまい、
そこから抜け出すことのできない取締役はたくさんいます。私がそうでした。
取締役の兼任をなくす
「本田宗一郎は技術」「藤沢武夫はマネジメント」。
ホンダがそのように役割を明確にして経営を進めていったことはご存じのとおりです。
当時、副社長だった藤沢武夫氏は、会社の将来を見据えて経営人材の育成を
自分の責任として課し、次のような手を打ちました。
まず、取締役の兼任をすべて解いて専任にしました。
「取締役兼◯◯本部長」という肩書きから「◯◯本部長」という役職を
取ってしまったわけです。そして、「取締役の仕事は何か?」ということについて
考えるミーティングだけを取締役の仕事にしました。
実際、4カ月間、「取締役の仕事は何か?」ということについて考えることしか
させなかったといいます。それは、藤沢氏が取締役に行った経営人材の育成でした。
最も重要な仕事は何かを考え抜く
当時のホンダの取締役たちから、「改めて考えてみると取締役としての仕事を
何もしていなかった」という声があがりました。こうして、当時のホンダの取締役は、
取締役として自分が担うべき責任を見出し、取締役として自分があたるべき仕事を
定めていったのです。
経営者の最も重要な仕事は「最も重要な仕事は何かを考え抜くこと」です。
取締役は「一つの部門の歯車になること」ではなく「会社全体の潤滑油になること」です。
取締役が、会社全体の潤滑油として機能するためには、取締役が自ら
「自分が担うべき責任は何か」を考え抜かなければなりません。
取締役に「どんな成果をあげるべきか」を考え抜いてもらい、話し合いを通して、
明確な責任と具体的な仕事を定めてもらうよう導いていってください。
経営人材を育てるトレーニング
成果は組織を通じて生まれます。たとえ優秀な人材が集まっても人間の組織化は必要です。
そこには必ずマネジメントがあります。マネジメントの力を身につけることは、
スポーツの上達と似ています。スポーツは、ルールを覚えたからといって
うまくできるようになるわけではありませんし、体の鍛え方を学んだところで、
筋肉がつくわけではありません。スポーツは悪いところは何度も何度も矯正しながら、
繰り返し、繰り返し練習するはずです。その後、いろいろな経験を積み重ねて力を
つけていきます。また、体を鍛えるのに講義を受けただけで
完結することがないのと同じように、マネジメントも講義だけで
完結することはありません。実践してはじめて力が身についていくのです。
ところが、多くのマネジメント教育が知識を詰め込むだけで、
現実の仕事に結びつけて実践する場がありません。それでは現実の力は身につきません。
マネジメントの力を身につけるためには、先にお伝えしたとおり、
繰り返し練習しなければなりません。
ぜひマネジメントの経験を積む機会を与えてあげてください。
ドラッカーが教える最強の後継者の育て方
著者 山下淳一郎 同友館 1,600円(税別)
世界で初めて経営の承継を取り上げたドラッカーは、
後継者育成の原理原則を教えてくれています。
後継者を育てたい社長様へ
基本と原則に反する者は例外なく破綻する。
ピーター・ドラッカー
今以上に事業を伸ばしていくためには基本と原則は不可欠です。
さらなる発展のために、ドラッカーを学びましょう。
「ドラッカーのセミナー」を見る